何もすることがないという贅沢~関前諸島 大下島編~

関前諸島、大下島(おおげじま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。船を乗り継ぎ何時間もかかると思っていたが、実際に行ってみると今治港から高速艇でわずか45分。拍子抜けするほど近い。

離島へ

関前諸島、大下島(おおげじま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。船を乗り継ぎ何時間もかかると思っていたが、実際に行ってみると今治港から高速艇でわずか45分。拍子抜けするほど近い。それなのに、どうしてこうも遠く感じるのだろう。橋で繋がっていない、海を隔てているということはこういうことなのかもしれない。

島に流れるゆるやかな時間

橋が架かっていない島には独自の文化や自然が残っている。大下島も例外ではなく船を降りるとなんともゆるやかな時間と空気の流れを感じた。島内にはふたつの灯台がある。まずはアゴノ鼻灯台を目指し、集落を通り抜け海岸沿いの道をすすむ。道中、人に会うことはほとんどなかった。港から20分ほど歩いたところで、大きな白い灯台が目の前に現れた。崖の上に立つ灯台は17メートル、空に向かって聳えている。ここは2018年公開の映画『嘘を愛する女』のロケ地となった場所。

もう一つの灯台、大下島灯台は島の西側に位置する。遊歩道を登って行くと石造りのレトロな灯台が姿を表した。明治時代につくられたものでとても風情がある。こちらも映画のロケ地としてつかわれている。島内には信号や横断歩道はなく、コンビニもスーパーもない。飲食店もない。港近くに小さな店が一軒あったが、土日は休んでいるようだ。学校もない。船の待合所と郵便局を兼ねた住民センターと、週に一度ひらく診療所があるだけ。不便といえば不便だろう。現代人はたくさんの情報に振り回され、どこかへ出掛け、誰かと会い、充実した何かを手に入れようとする。しかし、ここでは何もすることがない。それは、忙しい今を生きる私たちにとって、何よりも幸せなことではないだろうか。